「ガチャピンはすごい」

はっきり言って、ガチャピンはすごい。
と感じたのは、着ぐるみバイトをした時のことである。ケロッグの販売促進のためのイベントだった。
どこかのスーパーの中。牛乳をかけて食べると美味しいコーンフロスティやチョコワなどが積み上げられた売り場の横で、子ども相手に試食を勧めて、親に買っていただくのが仕事だ。
そこで、着ぐるみの登場である。
バックヤードには2人のキャラクターがいた。「コーンフロスティ」でおなじみ、虎のトニー・ザ・タイガー。「チョコワ」でおなじみ、猿のココくん。 トニーは「トニー、力が出ないよ〜」のCMで名前は知っていたが、ココくんは初耳だった。
ちなみに、ケロッグにはあと2人、ニワトリのコーニー、象のメルビンがいるらしいが、用意されてなかった。
ニワトリも象も着ぐるみにするのは難しいからだろうか。前足と後足で2人必要だからか。
是非、2人がかりの象が売り場に出て来てほしいものである。鼻で試食のトレーを持っている姿を見たら、その頑張り様に即買いだ。
何て思っていると、「君、トニーね」と言われた。僕は痩せ身で、どうみてもトニーではないのだが、身長で決められた。
早速、トニーの決めポーズをレクチャーされる。ガッツポーズをして親指を立てるらしい。
普段、ガッツポーズをして親指を立てることがほとんどないので、慣れるまで恥ずかしかった。
しかし、見た目はトニーだ。僕じゃない。そう思うといくらでもガッツポーズ出来そうな気がした。

スーパーが開店すると共にトニーとココくんは売り場に出た。
一人で歩くには視界が狭すぎて危ないのでイベントのディレクターに手を引かれての登場である。
トニーが人間に連れられて足元おぼつかなく歩く姿はいかがなものか。
しかし、ホントに視界が狭い。トニーの目の部分がマジックミラーになっていて、そこから覗くような感じなのだ。
売り場に到着したら、子どもがいたので、早速ガッツポーズをした。
興味津々で寄って来る子、遠巻きに見ている子など様々だ。そのみんなにガッツポーズをした。
10分も立たないうちにマジックミラーが曇りだした。
ディレクターに伝えたいが、子どもがいっぱいいて、しかも頭を外さないと話せないので、とりあえず我慢することにした。
どんどん見えなくなっていく視界の中で、僕はガッツポーズを繰り返した。そして、ふと、我に返る。さっきからガッツポーズばかりしている。
トニーは何がそんなに嬉しいのか。ダメだ・・・バリエーションが少なすぎる。
強そうに見えたらいいだろうと思い、それからは時々、胸を叩いてみた。そして、ふと、我に返る。コレではゴリラだ。トニーは虎だった。

30分ごとに休憩と水分補給することになっているが、20分もしないうちに衰弱し始めた。
着ぐるみの中はなんて暑いんだ。すごく体力を消耗する。トニーの中でトニー、力が出ないよ〜状態だ。
こういう時こそ楽しいことを考えなくてはいけない。
ちょうど一人プレイに飽きて来ていたので、ココくんと連携して何か面白いことは出来ないかと思い、薄っすら見えるココくんに近づいた。ココくんは遠ざかる。 そりゃそうだ。同じ場所に2人もいらない。
やっと休憩時間が来て、バックヤードに入る。頭を取って振り返ると、子どもが付いて来ていた。
子どもは、黒髪のトニーを見て立ち尽くす。
黒髪のトニーも立ち尽くす。
ディレクターが入ってきちゃダメだよと追い返す。
一足早く大人になった子に、心の中でごめんねと呟いた。
そして、着ぐるみで崖に上ったり空を飛んだり、僕には絶対無理と呟いた。
はっきり言って、ガチャピンはすごい。



写真はヒップホップダンスを踊って表彰される二人。
だいぶ昔、リアルタイムで番組を見ていて、思わず写真を撮ってしまった。
ムックの黒目が上下左右に動き回るのが、とっても危険で笑えた。
バク転に失敗して頭を強打したガチャピンも魅力的だった。

[コラム] 山内直哉 (隕石少年トースター)
「隕石少年トースター」の座付作家。東京のシナリオ学校でテレビドラマの脚本を学んでいたが、再び舞台に帰還して隕石少年トースターを旗揚げ。 ドキドキワクワクして最後にほっこりした気持ちになれる作品「ピクニックコメディ」を開拓!ほんわかした雰囲気だけど隠れた野心家。 07年には劇場プロデュース「#10」の作家に抜擢され注目を集めた。
劇団サイト=http://www.inseki.jp/